研究者メンバーの発言

キャリア自律2026.09.07

「人材育成は企業の中だけで完結できるのか」-(独)労働政策研究・研修機構 新刊資料シリーズのご紹介

労働政策研究・研修機構(JILPT)から、資料シリーズNo.306『人材育成の社会的基盤を考える』が刊行されました。


 日本企業の人材育成は、これまで職場内OJTを中心に、企業内部で人を育てる仕組みに大きく依存してきました。しかし、デジタル化の進展、事業環境の不確実性、人手不足、働く人のキャリア観の多様化などを背景に、企業内の経験だけで、将来必要となる能力をすべて育成することは難しくなっています。

 本冊子では、企業内で担うべき人材育成と、企業の外部あるいは企業を越えて支えるべき人材育成を、どのように切り分け、接続していくべきかを多面的に検討しています。


 取り上げているのは、企業の人事管理、業界団体や専門機関による研修、在籍型出向、職業コミュニティ、シンガポールの継続教育・訓練制度、労働組合による企業横断的な人材育成などです。企業、業界団体、職業コミュニティ、労働組合、教育訓練機関、行政が、それぞれどのような役割を担い、連携できるのかを考える内容となっています。


 私は、第2章「社員のキャリア自律を醸成する人事管理システムとは――企業と個人の双方調整型能力開発における越境学習の位置づけ」を執筆しました。

 キャリア自律というと、社員自身にキャリア形成や能力開発の責任を委ねることだと理解されることがあります。しかし、調査対象とした先進企業8社では、単純な「個人任せ」ではなく、社員の希望や強みと、企業が必要とする人材像や事業上の要請を、対話を通じてすり合わせる取り組みが重視されていました。本章では、これを「双方調整型能力開発」と捉えています。

 その重要な機会の一つが、社員が所属企業の境界を越えて学ぶ「越境学習」です。在籍型出向、ベンチャー企業への派遣、社会課題解決型プロジェクト、プロボノ型プログラムなど、実際の仕事や課題への参加を通じた多様な取り組みが進められています。ただし、社員を社外に送り出すだけで、学びが自動的に生まれるわけではありません。本人の主体性に加えて、参加者の選定、送り出す前の目的設定、経験中の支援、帰任後の配置や役割への接続までを含めた、人事管理上の「還流設計」が重要になります。

 社員のキャリア自律を、企業の育成責任の縮小としてではなく、企業と個人が対話しながら、ともに能力開発を進める仕組みとして捉え直す――。本章が、そのための人事管理を考える一つの材料になれば幸いです。


 人材育成を自社の内部だけで完結させるのではなく、社外での学習や経験をどのように取り込み、社員と組織双方の成長につなげるか。本冊子は、これからの人材育成のあり方を検討する人事担当者の皆様にも、参考にしていただけるものと思います。

 資料シリーズNo.306『人材育成の社会的基盤を考える』は、JILPTのウェブサイトから全文をご覧いただけます。

 https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2026/306.html

この記事を書いた人
松原光代
Mitsuyo Matsubara

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