研究者メンバーの発言

仕事と子育ての両立2026.07.30

<女性に係わる両立支援と活躍支援>に関する備忘録

<女性に係わる両立支援と活躍支援>に関する備忘録(2026.07.30)


 小論は、女性の就業継続とキャリア形成(活躍支援)に関する課題と解決策について、両立支援制度の現状、職場風土、管理職マネジメント、周囲の負荷構造などの観点から整理したメモです。


①     企業の育児支援は、なぜ就業継続につながらないことがあるのか

 前提として、正社員女性の就業継続はこの30年で確実に進みました。第1子出産後も就業を継続する正社員女性は2000年代半ば以降5割程度となり、その後も増加傾向にあります。ですから「支援が継続につながっていない」というより、「継続はしたが、その先の活躍につながらない」というのが正確な現状認識です。

ただし、継続そのものが今も難しい局面は残っています。背景には二つあり、一つは残業を前提としたフルタイム勤務という働き方、もう一つはパートナーである男性が家事・育児をほとんど担っていないことです。年間200日以上就業する30〜40代の男性正社員のうち、週49時間以上、つまり毎日2時間程度以上の残業をしている人が3割程度います。こういう長時間労働の職場では、子育て中の女性は両立が難しく、短時間勤務を長期に利用せざるを得なくなります。

そして、就業を継続できても、両立支援制度に「過度に依存した」働き方が、かえって女性の能力開発を妨げてしまう。ここが「支援が活躍につながらない」核心です。制度は「辞めずに済む」という点では成功しましたが、それだけでは不十分だということが、この30年で見えてきたことだと思います。


②     出産から小学生期まで、両立支援を継続して考える必要性

 見落とされがちなのですが、育児は出産直後で終わるものではありません。子どもが小学校に上がる頃、いわゆる「小1の壁」も含めて、支援を通期で設計する必要あります。

短時間勤務を例にとると、法定の措置義務は「3歳未満」です。ただ実際には法定を上回る制度を導入している事業所も多く、「小学校入学以降も対象」とする事業所を合計すると3割弱を占めます。事業所規模500人以上に限れば6割強にのぼります。企業が利用可能期間を延ばしてきた背景には、フルタイムに戻ると残業を期待される職場状況があること、パートナーが家事・育児を担わないため女性一人でも両立できる働き方が不可欠だったこと、そして延長を望む女性社員が多かったことがあります。

 しかしここで難しいのは、この延長が両面性を持つ点です。利用可能期間を法定以上に延ばすことは、仕事と子育ての両立には確かに貢献しました。しかし同時に、女性の仕事経験による能力の伸びにはマイナスにも働きます。6時間勤務は8時間勤務に比べて経験量が8分の6にとどまるため、8年間利用するとフルタイム6年分の経験にしかなりません。しかも利用期間が長くなるほど、管理職は定型的な業務を割り振りがちになり、本人も次第にキャリアより子どもの成長に関心が向いていく傾向があります。

  ですから、出産直後の支援だけを手厚くする発想ではなく、学齢期まで見見据えつつ、「支援が長期化するほど能力開発が細る」というトレードオフをどう解くかを、期間全体で考える必要があります。


③     制度があっても利用されない職場の問題

 制度が整っていても、職場の「規範」や雰囲気が利用を妨げるという問題があります。これは男性育休で最も鮮明に表れます。

   日本の育休制度は、OECD諸国の中でも、母親の就業や取得の有無にかかわらず父親が休業でき、所得補償の水準も手厚いと評価されるレベルに達しています。制度は世界的に見ても充実している。にもかかわらず取得が進まない。手厚い制度があっても、職場での評価や世間の目を気にして男性が使えないのです。「夫は仕事、妻は家事育児」という男性稼ぎ手モデルを前提とした固定的な働き方や職場風土、そして「仕事を何より優先すべきだ」という時間意識が、利用にブレーキをかけている。

 これは男性に限った話ではありません。女性の短時間勤務や育休についても、周囲への遠慮や評価への不安が利用のしかたを縛る構造は共通します。制度を作ることと、それが実際に安心して使えることの間には、大きな距離がある。ですから、最近議論されている所得補償の拡充が、そのまま取得拡大につながるかは定かではありません。むしろ所得補償以外の、こうした規範や職場風土といった阻害要因を解明し、崩していくことのほうが本質的な課題だと考えています。


④     男性育休の取得と、その後の育児参加の課題

 男性育休には、二段階の課題があります。まず「取得そのもの」、次に「取得が持続的な育児参加につながるか」です。

取得の面では、2021年度の取得率は女性85.1%に対し男性は14.0%と低く、取得期間も女性の9割以上が6カ月以上なのに、男性は約半数が2週間未満と短い。制度は充実しているのに、規範が阻んでいるのは③で述べたとおりです。

 問題はその先です。短期の取得や、妻の産休中の期間の取得などでは、子どもが大きくなるまで持続的に育児参加する行動にはつながりにくい。ここで重要になるのが、妻が職場に復帰した後に、父親がある程度長期に「単独で」休業し、子育ての完全な担い手となる経験です(いわゆる「単独育休」)。この経験が、「母親でなければできない」と考えられてきたことがらを、その思い込みから解き放つことにつながり、社会全体の働き方の転換の鍵になり得る、という指摘があります。単に休むかどうかではなく、どう休み、何を経験するかが問われている。

 企業ができることとして、自社の女性社員とその配偶者を対象にした子育て支援セミナーを開く例なども出てきています。配偶者は他社勤務で直接働きかけにくいという難しさはありますが、大事な取り組みです。

 なお、育児経験をキャリアや業務能力の向上につなげる疑問のありますが、本来育児は家庭や社会の基盤を支える欠くべからざる営みです。企業は「ビジネス上のメリット」だけに依存するのではなく、個人の生活者としての当然の権利や多様な家庭事情を尊重し、持続的に支える姿勢が求められます。


⑤     管理職の対応が両立や離職意向に与える影響

 管理職の日々の関わり方は、女性が働き続けられるか、そして活躍できるかを大きく左右します。

まず育成機会の配分です。我々が実施した大企業8社の総合職に関する調査によると、「担当する仕事の内容」「出張の機会」「上司や先輩から厳しく指導される機会」などで「男性が有利」と感じる割合が男女ともにかなり高い。女性では「職場や会社に関する情報入手の機会」や「上司から声をかけてもらう機会」でも男性有利が2割弱にのぼります。配分される仕事、上司の育成期待、指導のかけ方──こうした能力開発機会に男女差があり、それが後の能力の伸びにマイナスに効いている。そして、これは離職意向にも直結します。総合職として採用されても能力開発に恵まれず、キャリアの将来性に疑問を持って退職につながった女性がいたことが指摘されています。上司がどう育て、どんな期待をかけるかが、本人の「この会社で続けられるか」という見通しを形づくるわけです。

 配属先での仕事経験や指導機会を男女で均等にできるかどうかは、人事セクションの取り組みだけでは届かず、その職場の管理職のマネジメント次第という部分が大きい。ですから、女性を含めた多様な部下をマネジメントできる管理職(いわゆる「WLB管理職」)を育て、登用することが不可欠です。課題解決には、男性管理職の意識・行動改革に加えて、女性自身の管理職への登用拡大も鍵になります。


⑥     育児中の従業員と周囲の従業員の負担をどう捉えるか

 両立支援を職場で機能させるうえで避けて通れないのが、育休取得者や短時間勤務者を支える「周囲の社員」の負担をどう捉えるかです。当事者を支援するあまり、周囲にしわ寄せがいけば、職場に軋轢が生まれ、支援そのものが立ち行かなくなります。

実態を見ると、育休取得者がいた事業所の対応では「代替要員を補充せず、同じ部門の他の社員で対応した」割合がかなり高い比率にあります(厚労省調査)。代替要員が配置されず、他の社員が負荷を肩代わりしている職場が多いわけです。とりわけ短時間勤務者がいる職場では、短縮された労働時間分に見合って業務量や達成目標が削減されればよいのですが、そうした調整をしている企業は少ない現状があります。職場ごとの業務量に応じた要員管理をしていないことが背景にあります。

 負担を「当事者 対 周囲」の対立として放置しないことが要だと考えます。二つの方向が必要です。一つは代替要員をきちんと配置すること。もう一つは、それでも増える周囲の社員の負荷を、人事考課や賞与で正当に評価することです。肩代わりを「善意」や「がまん」に頼るのではなく、貢献として可視化し報いる。さらに単なる欠員補填にとどまらず、既存社員が上位業務に挑戦する機会とし、そこから生じる定型業務を代替要員へ繋ぐ「順送り代替」のように、職場全体の能力開発機会へ転換する設計が求められます。


⑦     時短勤務などがキャリア停滞につながる理由

 ⑥で触れた「負担」の裏側で、当事者の側にはキャリアの停滞が生じます。理由は大きく三つに分類されます。

時間の絶対量の不足(量的側面):短時間勤務により物理的な稼働時間が削減されることで、経験の蓄積ペースが構造的に遅れます。

任される仕事の性質(質的側面):管理職が短時間勤務者の能力に見合った付加価値の高い仕事を割り振りにくく、利用期間が長くなるほど定型的な業務を任せがちになります。挑戦的な仕事や責任ある役割から遠ざかり、能力を伸ばす機会そのものが細っていきます。

キャリア意識の変化(心理的側面):制度を長期間利用するなかで、周囲への遠慮や業務範囲の限定が続き、次第に自身のキャリア形成よりも子どもの成長へ関心が偏っていく面があります。

 これらが複合的に作用した結果、就業自体は継続できても、管理職登用などのステップアップが遅れる要因となっています。時短勤務は「離職防止」には強力なツールであっても、適切な運用を欠くと「成長停滞」をもたらすという両義性を秘めています。


⑧     両立支援とキャリア支援を一体で考える必要性

 ⑦までを踏まえると、なぜ両立支援とキャリア支援を切り離してはいけないかが見えてきます。両立支援だけを手厚くすると、女性は「辞めずに済む」代わりに「伸びにくい」状態に置かれてしまう。就業継続とキャリア形成が、制度設計の中で分断されてしまうのです。

そこで2010年代以降、いくつかの企業では、施策の重点を「両立支援」から「活躍支援」へとシフトさせる動きが始まっています。すでに法定を上回る水準に整えた両立支援制度を引き下げるのは難しいので、通常は、制度の使い方を社員自身に考えてもらうための情報提供や研修が中心になります。制度をなくすのではなく、「制度をどう使えばキャリアも伸ばせるか」を本人と職場が一緒に考える方向です。

 大事なのは、両立支援を「守り」、キャリア支援を「攻め」と分けるのではなく、一つの連続した支援として設計することです。育児期をキャリアの中断や停滞の時期にするのではなく、通過しながらも成長を止めない時期にできるか。ここが問われています。


⑨     育児期の従業員が働き続けられる組織の条件

 最後に、ここまでの論点を総合して、育児期の従業員が働き続け、かつ活躍できる組織の条件を整理します。四つあると考えています。

 組織の条件:取り組みの要点・具体策


  1. 柔軟な働き方の導入

     残業の総量削減に加え、出退勤時刻の自己管理や在宅勤務の選択肢を確保し、早期のフルタイム復帰等を可能にする。

 2,多様な部下をマネジメントできる管理職の育成・登用

    多様な部下をマネジメントし、育成機会の性別格差を解消できる管理職を育成・登用する(女性管理職の登用推進を含む)。

 3. カップルでの子育てに関する支援

    男性の主体的な育児参加・単独休業を促進し、固定的な性別役割分担意識を解消する。

 4. 制度的な基盤構築

   事前予算の確保による代替要員確保、周囲の負荷に対する適切な人事評価・報奨、および能力開発につながる「順送り代替」の運用。


 これらは、今後確実に増える介護との両立にも共通して必要になる条件です。両立支援は出発点であって、ゴールではない。働き方・管理職・男性の参加・制度基盤の四つを同時に動かせるかどうかが、これからの組織に問われています。 


この記事を書いた人
佐藤博樹 (共同代表)
Hiroki Sato

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