研究者メンバーの発言

人的資源管理2026.07.25

<なぜ法定を上回る人事制度が望ましいと評価されるのか>


   人事制度は相互に関連するシステムであり、人事制度の一部だけを取り出してその望ましさを判断することはできない。しかし実際には、人事制度の一部を取り上げ、その一部の制度の水準(法定を上回るなど)をもって当該人事制度を評価する議論がしばしば見られる。とりわけ育児・介護に関わる制度で、この傾向が顕著である。

   例えば短時間勤務制度である。法定では子が3歳になるまで利用できる制度であるが、これを小学校入学まで、3年生まで、6年生までと利用期間を延長することが望ましいとする議論があり、延長していることを評価する企業表彰も少なくない。

    しかし、子育て中の女性が就業を継続するうえで、短時間勤務の長期化が本当に望ましいのかは検討の余地がある。短時間勤務を長期にわたって利用すれば、担当できる業務のレベルが下がり、幅が狭まり、職業能力の形成機会は減少するリスクが高くなる。女性の活躍という観点からは、短時間勤務を長く利用せずとも、フルタイム勤務に復帰し、残業を前提とした働き方を解消したうえで、仕事と子育てを両立できる柔軟な働き方——業務の適正化、フレックスタイム、テレワークなど——を整えた企業の方が望ましいはずである。短時間勤務の期間が法定どおりであっても、そうした働き方ができる企業の方が女性のキャリア形成には資する。にもかかわらず、この観点からの議論は乏しい。

    仕事と介護の両立についても同様である。法定の93日を上回る介護休業期間を設ける企業を高く評価する見方が根強い。しかし仕事と介護の両立は、介護休業の期間を法定以上に延長することで解決する問題ではなく、必要なのは仕事を続けながら介護にも対応できる働き方や、介護保険制度のサービスを利用して仕事と介護を両立するマネジメントの支援にある。

   こうした誤解に基づく社会的評価を前提に、マスコミなどの対外的な「受け」を意識して法定を上回る制度を導入する企業も散見される。かつての育児休業の有給化や、近年見られる介護休業期間の延長がその例である。

   育児休業の有給化については、その効果が過大に評価されている面がある。有給化とは、休業しても賃金を減額しないという処遇上の措置に過ぎない。他方で、休業者の業務は同僚が引き受けることになるが、その負担が論じられることは少ない。重要なのは有給化そのものではなく、休業期間中の代替要員をいかに確保するかであり、その確保には別途の財源が必要になる。しかし、そこまで踏み込んでいる企業は多くない。

    さらに留意すべきは、休業中の有給化と雇用保険の育児休業給付との関係である。事業主から賃金が支払われる場合、休業前賃金に対する支払い割合に応じて給付が調整される仕組みであり、全額を有給とすればその期間の給付は支給されない。有給化は、給付との関係を踏まえて設計されなければ、企業にとって費用対効果の乏しい制度になりかねない。

   人事制度を構成する個々の制度の水準ではなく、女性の活躍の場の拡大や仕事と介護の両立にどこまで貢献しているかを、人事制度をシステムとして評価する視点が求められる。 

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この記事を書いた人
佐藤博樹 (共同代表)
Hiroki Sato

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