研究者メンバーの発言
介護休業の延長は「望ましい取り組み」なのか?
【介護休業の延長は「望ましい取り組み」なのか?】
「法定の介護休業期間を延長するのは、企業として望ましいのでは?」という問い合わせをいただきました。気持ちはよく分かりますが、この問いには押さえるべき論点が3つあります。
① 93日は法定の“権利”。延長より前に大事なこと
まず前提として、法定の介護休業(93日)の取得は労働者の権利です。要件を満たす社員の取得を認めなければ法違反になります。
以前も触れましたが、その上で本当に大切なのは、「離職のリスクを事前に知りたかった」という後悔を社員に残さないことです。たとえば、親が末期がんで「余命3か月」と言われ、看取りを覚悟して介護休業を取ったとします。ところが3か月後、「容態が安定した」と告げられることもある。介護はこうして長期化し、仕事との両立が難しくなって離職につながるケースが少なくありません。
企業に求められるのは、こうした見通しやリスクも含めて事前に情報提供し、社員が納得して選択できるよう支えることです。
② 「5年に延ばせば安心」ではない
社員から延長を求める声は根強く、実際に介護休業を5年に延ばした企業もあります。しかし、調査によると、介護に要する期間の平均は約4年7か月で、しかも10年以上に及ぶ人が約15%(7人に1人)にのぼります(生命保険文化センター 2024年度調査)。つまり、平均だけ見ても「5年」ではカバーしきれず、長期化する人も一定数います。そのため、5年に延ばしても足りず、結局離職する社員が出てきます。
さらに介護に必要な期間は、事前には予測できません。だからこそ目指すべきは、社員が介護に“専念”するのではなく仕事と介護を“両立”できるように支援することなのです。自身のキャリアを今後も継続したい社員は、介護休業を「自分が介護に専念する時間」ではなく「両立できる体制をつくる時間」として使うことが大事になります。直接の介護は専門家に任せ、本人は精神的な支えと両立のマネジメントを担う——この取り組みが現実的なものになります。
③ 大企業の長期制度は“名残”であることも
大企業では、すでに介護休業が半年〜1年という例も珍しくありません。これには歴史的な背景があります。介護休業が法制化される前の1990年代初頭、当時の労働省は、社員自身が家族の介護(脳血管疾患などの発症から症状が安定するまでの期間等)のために、企業独自の福利厚生として「介護休業」の導入を推奨していました。1991年の調査でも、大企業を中心に取得可能期間1年以上の制度がかなりの比率を占めていました。
当時は介護保険制度の成立前のため、これは適切なものでした。しかし介護保険制度が導入された現在、介護は「社会で担う」時代に変わっています。本来、介護保険制度の成立時点に、企業は介護休業の利用目的を介護に“専念”することから仕事と介護の“両立”へと切り替え、社員に伝える必要がありました。それを怠った企業が多かったのです。
なお、すでに法定以上の期間に延長している企業が期間を短縮するのは、労働条件の不利益変更にあたる可能性があるため注意が必要です。つまり、すでに法定以上の期間に延長している企業は、その利用目的を適切に社員に伝えることが大事になります。
まとめ
介護の社会化を前提に、「介護がいつまで続くかは誰にも予測できない」ことを社員に率直に伝える。その上で、社員自身が仕事と介護の両立の方法を選べるように支える——延長の是非よりも、これが企業に問われていることだと思います。