研究者メンバーの発言
法定の介護休業制度はなぜ「介護に専念するための制度」と誤解されるのか
法定の介護休業制度に関して、人事担当者も含めて、介護に専念するための制度とする誤解がなぜ根強いのか。
もちろん、介護休業を取得して介護に専念することもできる。しかし、介護の課題はいつまで続くか事前にわからないため、介護に専念すると仕事に復帰ができなくなる可能性が高くなる。そのため、キャリアの継続を希望するのであれば、介護休業を取得する場合でも、介護に専念するのではなく、仕事と介護の両立を可能とする体制構築のために利用することが大事になる。それにもかかわらず、介護休業を介護に専念するための制度とする誤解が根強い主な要因としては、下記の4点を指摘できる。
第1に、介護休業制度が法制化される前の1990年代はじめから、当時の労働省が、脳血管疾患などの発症から症状が安定するまでの間、社員自身が家族の介護を担う必要がある場合に休業できる企業独自の福利厚生制度として、「介護休業」の導入を推進していたことがある。つまり当時は、社員が自ら介護を担うための制度として介護休業が導入されたのである。1991年の調査によれば、大企業などでは、取得可能期間を1年以上とする介護休業制度を導入する企業がかなりの比率を占めていた。すなわち大企業では、介護休業が法定化される前から、社員が要介護状態にある家族を介護するための社内の福利厚生制度として介護休業を導入しており、介護休業の法定化や介護保険制度の導入後も、その規定を維持した企業が多かった。
第2に、育児休業法が育児・介護休業法に改正され、介護休業が法定化された時点(努力義務化が1995年10月、義務化が1999年4月)は、介護保険制度の施行(2000年4月)前であったことである。そのため、育児・介護休業法第2条第2号では、介護休業について「労働者が、(略)その要介護状態にある対象家族を介護するためにする休業をいう」と規定された。この規定は、「介護の社会化」を掲げて介護保険制度が施行された後も変更されなかった。もちろん、労働政策審議会の建議「仕事と家庭の両立支援対策の充実について」(2015年12月21日)では、「介護休業制度は、現行、家族が介護に関する長期的方針を決めることができるようになるまでの期間の緊急的対応措置として位置づけられているが、これを基本的に維持し、介護の体制を構築するための一定期間休業する場合に対応するものと位置づけることが適当である。なお、この介護休業の位置づけを踏まえ、いわゆる『介護』のみを行う場合のみならず、それ以外の介護の体制構築のために必要な行為も併せて行う場合も当然に含まれるものであることに留意が必要である」と説明されていた。しかし、建議まで読む人事担当者はほとんどいないであろう。
第3に、介護保険制度の成立後、労働者が担う「介護」の中身、つまり「対象家族を介護するためにする休業」とは何かという議論が行われてこなかったことがある。介護保険制度の下では、労働者が直接的な介護を担うのではなく、要介護者への精神的な支援と、要介護者の生活の質の担保および自身の仕事と介護の両立を実現するためのマネジメントこそが、労働者の担うべき役割である。しかし、こうした議論がなされてこなかったのである。
第4に、育児休業と介護休業が同じ法律の中で規定されていることである。その結果、育児休業と介護休業を同じ趣旨の休業、すなわち「自ら育児を担う休業」と同様に、「自ら介護を担う休業」と理解されやすいことになったのである。
上記の課題を解決する第一歩は、各企業における就業規則上の介護休業の名称を、本来の役割がわかるものに変更することである。実際に、こうした動きは始まっている。例えば竹中工務店は、2026年4月1日から「介護休業」を「介護両立準備休業」に名称変更している。これは、介護に専念するための休業ではなく、介護と仕事の両立に向けた準備をするための休業であることを社員に明示するためである(詳細は https://www.takenaka.co.jp/news/2026/03/04/ を参照)。
こうした名称変更については、私が委員として参加した厚生労働省の「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会」(座長:武石恵美子)でも提起し、同研究会の報告書(2023年6月)には次のように記載されている。すなわち「各企業で就業規則等において制度を定める際に、『介護休業』の名称を『介護準備休暇』、『介護休業・介護体制準備休業』というように、企業独自で決めることも、法律上の取得要件等を満たしていれば問題はない。こういった名称の変更により、制度の趣旨が伝わりやすくなる工夫が考えられる旨、周知していくことが望ましい。」と。
大事なことに関する追加の説明です。
介護休業の取得は労働者の権利であり、介護に専念するという本人の選択は尊重されるべきです。ただ、留意すべきなのは、介護休業を経てそのまま離職を余儀なくされた社員から、「離職のリスクを事前に知りたかった」という後悔の声が出ないようにすることです。例えば、親が末期がんで医師から「余命3か月」と宣告され、看取りを見据えて介護休業を取得したとします。しかし3か月後、医師から「容態が安定したので、あと数か月は大丈夫です」と言われるケースもあります。このように介護が長期化し、結果として(仕事との両立が難しくなり)離職につながることも少なくありません。
つまり企業に求められるのは、そうした見通しやリスクも含めた情報を事前に提供し、社員がそれを踏まえた上で最適な選択をできるよう支援することなのです。